アニマルウェルフェアとは
アニマルウェルフェア = 動物福祉とは、動物が適切な飼育環境で生き、痛みや苦しみを受けず、適切な栄養や医療ケアを受け、自然な行動を取ることができることを指します。つまり動物たちが身体的・心理的・社会的な健康状態を維持できるように人間が彼らのニーズを理解し、彼らを尊重することを目的とした考え方や行動です。動物福祉は、動物たちの尊厳と尊重に基づいた考え方であり、動物たちを不当に苦しめることや、虐待や乱獲、違法な取引などを防止することも含まれます。
ブランベルの5つの自由 Brambell’s Five Freedoms
「ブランベルの5つの自由」とは、家畜動物が適切に飼育されるための指針として、1960年代に英国のブランベル委員会によって提唱されたものです。これらは動物福祉においての基本的な権利として認められ、動物たちが適切に飼育されるための最低限の基準となっています。動物と暮らすのならばこれらの権利を保障するため、その動物の自然な行動や不快、恐怖を理解しなくてはなりません。以下が「ブランベルの5つの自由」の内容です。
1:飢えと乾きからの解放 Freedom from hunger and thirst:新鮮な水と健康で活力のある生活を維持するための食事を与えること。
2:不快感からの解放 Freedom from discomfort:避難所や快適な休憩所など、適切な環境を与えること。
3:痛み・怪我・病気からの解放 Freedom from pain, injury, or disease:適切な医療ケアを提供し、予防措置を講じること。
4:自然な行動をする自由 Freedom to express normal behavior:十分なスペースや施設、社交場所を与えること。
5:恐怖と苦痛からの解放 Freedom from fear and distress:精神的苦痛やストレスを避けるための条件と的確な対応を確保すること。
また、最近ではニュージーランドのマッセイ大学のデビッド・メラー教授によって「5つの自由」を発展させた「動物福祉の5つの領域」が提唱されました。5つの領域は以下の5つで構成されており、動物に及ぶ害を防ぐ努力のみならず、動物に良い経験(正の経験)を与える努力についても考えられています。例えば、「飼育動物が空腹にならないようにするだけでなく、十分な栄養を与え、食事に興味を持たせ、過剰給餌することなく満足させるような動物種およびライフステージに合わせたフードを定期的に与えるべき」ということが挙げられます。十分な栄養を与えられ、身体的に健康な犬であっても、長期間ケージに収容されることで(行動制限)、重大な精神的苦痛が生じ、総合的に負の状態となる可能性があるのです。
1:栄養 Nutrition
- 正の経験:十分なフードと水、新鮮で綺麗な水、バランスの良いバラエティに富んだフード
- 負の経験:水分不足、栄養不足、低品質、単調
2:環境 Environment
- 正の経験:快適、穏やか、習慣化された環境、清潔、興味を刺激する・変化に富んだ環境
- 負の経験:寒すぎる、暑すぎる、暗すぎる、明るすぎる、うるさすぎる、静かすぎる、予測ができない環境、悪臭、不潔、単調な環境、居心地が悪い環境
3:健康 Health
- 正の経験:身体的健康、良好な身体機能、良好な体調、十分な睡眠
- 負の経験:身体機能障害、病気、痛み、体調不良
4:行動 Behaviour
- 正の経験:環境の選択肢、交流の選択肢、行動の多様性(遊び・狩り・採食・交流・休息)、新奇性
- 負の経験:刺激のない殺風景なケージ、閉鎖的な空間、人や他の動物との交流遮断、行動制限、避けることができない感覚刺激
5:精神的状態 Mental State *他の4つが影響を与える中心の領域
- 正の状態:満足感、交流、快適、愛情深い、よく遊ぶ、自信、穏やか、興奮
- 負の状態:恐怖や不安、フラストレーション、退屈、孤独、疲労感、病気、痛み、不快感、飢え、渇き
「動物愛護」と「動物福祉」
動物愛護と動物福祉は似たような意味に捉えられることがありますが、異なる概念です。
動物愛護とは、動物に対して「かわいそう」「大切にしたい」という優しさや思いやりといった感情や道徳心からくる考え方です。
一方、動物福祉は、動物が「快適で健康に生きられる」ようにするための科学的・客観的な取り組みを意味しています。食餌・住環境・医療など、動物の「生活の質=QOL」を重視しています。
例えば野良犬に対して、動物愛護の場合は「かわいそうだから保護してあげたい」「寒い外にいるのは辛そう」「一緒にいれば幸せになるはず」という人の気持ちや感情を優先して、保護や譲渡を考えます。動物福祉の場合は「この犬が健康に過ごせる環境は整っているか?」「病気の予防はされているか?」など、その犬の生活の質=QOLを科学的に評価し、必要な支援をします。どちらも大切ですが、アプローチが異なります。

動物と暮らす場合も、その動物に対して優しく、思いやりを持って接する愛護の精神はもちろん大切です。しかし動物愛護は、人によって倫理的な観点が異なるため動物の適切な飼育を考えるうえでは危険性を孕んでいます。例えば「可哀想」の観点が異なる場合、「冬は寒くて可哀想だから散歩は週に1回にしてあげている」という考え方や「散歩だけでは可哀想だから毎日ドッグランで走らせている」などといった客観的な評価のない様々な考え方が存在してしまいます。果たしてこれらは犬のニーズを理解していると言えるでしょうか。
動物と暮らすならば、その動物の自然な行動や不快、恐怖を理解し「どうすればこの動物がより良く生きられるか」という客観的で具体的な改善を目指し、動物が幸せになれるような活動に動物自身がコミットすることが必要です。ドッグトレーニングにおいても動物福祉を最優先し、犬のニーズを満たしながら人と犬が幸せな生活を送ることができる方法を科学的根拠を基に考えていく必要があります。
参考文献:トッド・ザジー(2024)あなたの犬を世界で一番幸せにする方法 東京 ナショナルジオグラフィック / DeTar Lenaら(2022)アニマルシェルターにおける標準ケアに関するASVガイドライン https://jsmcah.org/index.php/jasv/issue/view/2
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